東京高等裁判所 昭和56年(ネ)140号 判決
【主文】
原判決を取消す。
控訴人が本判決正本送達後一四日以内に金一〇〇万円の保証を立てたときは、被控訴人は、「高崎茂木園」及び「高崎市茂木園」の商標を商品茶について使用したり、右各商標を使用した茶を販売頒布したりしてはならない。
控訴人のその余の申請を却下する。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
【理由】
一控訴人が原判決添付別紙(一)のとおり「茂木園」の文字を横書きしてなる本件商標(昭和五〇年四月三〇日第二九類「茶その他本類に属する商品」を指定商品として商標登録出願、昭和五二年一一月二四日出願公告、昭和五三年一〇月三一日第一三五五五八二号をもつて設定の登録がされたもの。)の商標権者であること、被控訴人が昭和四三年三月一一日に設立された会社で、当初は事務機器等を販売していたが、その後、茶の販売を行なうようになり、現在、「高崎茂木園」あるいは「高崎市茂木園」の商標を付した茶袋等(原判決添付別紙(二)、(三)、(四)のとおり)、「高崎茂木園」の商標を付したレシート、シール(同別紙(五)のとおり)を使用して茶を販売し、立看板、広告板、新聞広告にも「高崎茂木園」の標章を付して展示していることは、当事者間に争いがない。
二そこで、本件商標と被控訴人の使用している「高崎茂木園」あるいは「高崎市茂木園」の商標との類否をみるに、本件商標からは、その構成文字に照らし「モギエン」の称呼が生ずることは明らかであり、被控訴人の使用する商標からも「モギエン」の称呼が生ずると認められるから、この点において本件商標と被控訴人使用の商標とは互いに類似するものというべきである。けだし、被控訴人使用の商標中の「高崎」あるいは「高崎市」の文字部分は、弁論の全趣旨により、単に被控訴人の所在地又は商品販売地を示すにすぎないものであると認められ、その要部は「茂木園」の文字部分にあり、したがつて、被控訴人使用の商標は、これを一連に呼称しなければならない必然性はなく、分断して単に「モギエン」と呼称されることも少くないと解されるからである。
三被控訴人は、本件商標は商標法第三条第一項第四号の規定により、その登録要件を欠くものであることは一見明白であり、無効審判請求による無効審決をまつまでもなく、その登録は無効とされるべきものであるから、控訴人は本件商標権を権利として主張することができないとの趣旨を主張する。
しかし、いつたん登録された商標は、仮りにそれが登録要件を欠いていたものであつたとしても、その登録を無効にする審決が確定しないかぎり、これを無効であるとすることはできないから被控訴人の主張は理由がない。
四被控訴人は、被控訴人の使用している商標中の「茂木」は被控訴人の代表者茂木昌美の氏であり、被控訴人は、それに茶舗が通常使用している「園」を付加して使用しているにすぎないから、本件商標権の効力は商標法第二六条第一項第一号により被控訴人使用の商標には及ばない旨主張する。
しかし、被控訴人の名称は茂木商事株式会社であつて、「茂木園」ではなく、また、「茂木園」が被控訴人の著名な略称であることを認めるに足る疎明もないから、被控訴人使用の商標が商標法第二六条第一項第一号に該当するものでないことは明らかであり、被控訴人の主張は理由がない。
五被控訴人は、被控訴人使用の商標を、本件商標の登録出願日(昭和五〇年四月三〇日)前から、不正競争の目的でなく、本件商標登録出願に係る指定商品中の茶の販売に関し使用していた結果、その商標が自己の販売に係る茶を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたから、被控訴人は被控訴人使用の商標について商標法第三二条第一項により先使用権を有する旨主張する。
しかしながら、被控訴人提出、援用の全疎明によつても、被控訴人がその商標「高崎茂木園」あるいは「高崎市茂木園」を茶の販売について使用していた結果本件商標の登録出願(昭和五〇年四月三〇日)の際、被控訴人使用の商標が被控訴人の販売する茶を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたことを認めることができない。
すなわち、<証拠>を綜合すると、被控訴会社は昭和四三年に設立され、当初は事務器の販売を行つていたが、昭和四六年二月頃から事務器の販売のほかに茶も売るようになつたこと、茶の販売を始めた頃の被控訴会社の茶の年販売額は一、五〇〇万円足らずであり、販売額は逐年増えて行つたが、本件商標登録出願の際にもその年商は五、五〇〇万円ないし六、〇〇〇万円程度しかなかつたこと、被控訴会社の茶の販売方式は高崎市を中心に所在する会社に一括販売する形式が多く、店頭販売はごく僅かであつたこと、被控訴会社は、茶の販売につき、本件商標登録出願前においては格別その広告宣伝をしてはいなかつたことが認められ、右認定に反する疎明はなく、右認定の事実の下においては、仮に被控訴会社が本件商標登録出願前において、被控訴会社販売の茶の包装紙や包装袋あるいはそれらに貼るシールに「高崎茂木園」、「高崎市茂木園」の商標を付して、茶を販売していたとしても、到底被控訴人使用の商標が被控訴人の販売に係る茶を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものとすることはできない。
よつて、被控訴人の先使用の主張は理由がない。
六以上のとおりであつて、被控訴人の抗弁はすべて理由がなく、控訴人は本件商標権に基づき、被控訴人に対し、被控訴人が本件商標に類似する商標である「高崎茂木園」、「高崎市茂木園」の商標を商品茶について使用すること及び右各商標を使用した茶の販売・頒布の禁止を求めることができるというべきである。そうすると被控訴人の先使用の抗弁を認めて控訴人の被控訴人に対する仮処分申請を却下した原判決は不当であるからこれを取消すこととするが、被控訴人が本件商標の指定商品中茶以外の商品についてはこれを販売していることの疎明はないから、これについても禁止の仮処分を求める控訴人の申請はその必要性がないものと認め、また、控訴人のその余の申請については控訴人が被控訴人に対し金一〇〇万円の保証を立てることを条件としてのみこれを認容す<る。>
(高林克巳 杉山伸顕 八田秀夫)